「獣医のキモチ」五回連載は
2015年2-3月、共同通信社のペットエッセー連載として、全国の新聞に連載されました
「象と添い遂げる暮らし」は、タイ北部・ランパーン県にある、国立タイ象保護センター(TECC)のお話
チーク材の伐採基地だったTECCは、タイで森林伐採が禁止されると、象使い術を伝承する象使い学校、象病院、見学施設をもつ、国立施設になりました
当時、通信社のバンコク支局員だった夫は、しょっちゅうイラク戦争の取材でバグダッドに行ってしまって
獣医師の私はその間
ランパーンに行って
象病院でボランティアをしていました
象使い学校にも入ったので
象にも乗れます
私が世界で一番好きな場所
象使いの暮らし
お読みいただけたらうれしいです
この連載
ムツゴロウ畑正憲さんの長期連載の
次にの五回連載でした
毎日新聞記者から
獣医師になった私の
動物へのキモチを
こめて書きました
ちなみに私の次の連載は
再びムツゴロウさんでした。
人気ありすぎ、天才肌の文章家、ムツゴロウさんの息継ぎになれて
光栄でした
象と添い遂げる暮らし
緑の山に囲まれた池に、十数頭の象がゆっくりと入っていった。背中に乗った象使いは手にはめた草履で、象の体を流す。 鼻先から吹き出す水しぶきは、朝の光で虹色に光った。
タイ北部ランパーン県の国立象保護センター。夫の仕事で首都バンコクに住んでいた私は、初めて見る光景に心を奪われた。付属象病院の獣医師に、ボランティアをさせてほしいと頼んだ。
タイで唯一の国立象病院は、国内の象を無料で診察する。少数民族との紛争が続くミャンマーとの国境で、チーク材の違法伐採作業中に地雷を踏んだ象の足に薬を塗り、包帯を巻く。
都会で物乞いをさせられている象が救助されれば、何時間もかけランパーンまで輸送する。
象が暴れた時に備え、木枠を組んだ象のトラックの後ろから、麻酔銃を構えた獣医師の車が続く。国王から預かった白い象を大切に育てる仕事もある。
象使いの暮らしには魅せられた。
夜明けとともに起き、山で眠る象を迎えに行き、首にまたがって山を下る。象は数トンの巨体を大きな丸い足裏で支えながら、急な斜面を滑るように下る。
山への行き帰りには手作りのパチンコで、木にぶら下がるマンゴーやキジ、リスを撃ち落とし、おかずとして持ち帰る。
家に帰ると家族と車座になって食事をする。夜は両親が子供を間に挟んで川の字に眠る。象が病気をすれば、そばで蚊帳をつり寄り添う。皆よく笑い、たくさん子供が生まれていた。
象使いは象と一生を添い遂げ、年老いると、象は息子が引き継ぐという。「お金がない」と口々に言うが、それ以外の幸せは全部持っているようだった。
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